Share

12話 対峙

last update Dernière mise à jour: 2026-02-01 17:20:32

「相変わらずの正確無比さだな」

手術室を出た私に高嶺遼大が言う。

「今後、気を付けるべき事ぐらい、言わなくても分かるわよね?」

歩きながらそう聞くと高嶺遼大が笑う。

「どうだろうな。こんな症例、ほとんど無いからな」

私は色々な事態を想定して、出すべき指示を考える。そんな私に高嶺遼大が言う。

「とりあえず、飯でも食わない?」

軽い調子でそう言う彼に今まで何度救われただろうか。私は高嶺遼大の微笑む顔を見て頷く。

「そうね」

術着を脱ぎ、着替える。私が居るのは手術をするスタッフが使う更衣室では無く、今回天才医師「X」の為だけに用意された部屋。着替えを終え、手を洗いながら洗面所の鏡を見る。

五年前のあの日、逃げるようにして出たここに、私は天才医師として招かれている。

(皮肉な話ね……)

そう思いながら水を止め、手を拭く。閉められていたカーテンを少しだけ開けて、外を見る。

怖くなかった訳じゃない。ここへ戻る事は私にとっても挑戦だったのだ。

そして、その挑戦は見事に完勝だ。通常ならば早くても8時間、少々遅れて10時間かかる大手術。それを4時間28分で終わらせた。手術をしながら、湊が必死で私に付い
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé

Latest chapter

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   43話 森崎望美を切り崩す

    書斎に入った俺たちは憤慨している様子の望美さんに座るように父さんが促している。「どういう事ですか? あの女を家に入れるなんて」そう言った望美さんに父さんがぴしゃりと言う。「そういう言い方は止めなさい」父さんに今までそんなふうに言われた事が無かったんだろう、望美さんは驚いている。「……一体、何が起こっているんです?」父さんはそう言う望美さんに言う。「お前に話さないといけない事があるが」そう言って父さんは望美さんを見る。「まずは燈ちゃんの事を“あの女”などと呼ぶ事は今後、許さんからな」父さんにそう言われて更に望美さんが驚く。俺はそんな望美さんに言う。「まず、事実だけ、先に伝えます」俺が話し出すと、望美さんがそんな俺を見る。「まず、大事な事は。俺がEMSO(アイゼンバーグ医療戦略機構)という世界最高峰の研究機関で責任者を任されているという事と、そのEMSOで燈が主任を務めているという事です」望美さんが聞く。「それが何?」ここを理解出来ていなければ、話が進まない。「端的に言うと、燈は天才医師です」俺がそう言った事でまた望美さんが驚く。俺は少し笑って続ける。「燈は元々、優秀な医師だったんですよ。望美さんが知っているように、久遠家の湊くんは今、聖カトリーナで脳外科医のエースと言われていますが、その湊くんを超えるのが燈です」父さんが書斎のデスクの上に置かれている新聞記事を望美さんに渡す。その新聞記事には大きく見出しが載っている。~またあの天才医師Xが快挙!~~世界最高峰の難手術! 天才医師Xが成功させる!~~難手術を次々と成功させる天才医師Xとは、一体誰なのか?~「お前は世間に疎いからな、知らなかっただろうが、今、医療界を席巻している天才医師っていうのが燈ちゃんなんだ」父さんがそう言う。望美さんは新聞を脇に投げて言う。「だから何だというんです? 颯太を助けられなかったんだから、そんな事に意味なんて無いでしょう?」確かに、上辺だけを見ればそうだ。一理ある。俺は一息、間を置いて言う。「じゃあ、その天才医師が何故、颯太を助けられなかったか」俺は望美さんを見る。「その陰に暗躍した人物が居たとしたら?」俺がそう言うと望美さんが少し笑う。「暗躍? 一体、何の話をしているの?」望美さんは世間知らずで、生粋のお嬢様だ。そういう甘

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   42話 書斎、リビング、レストラン

    玄関先に森崎健太郎が出て来る。高嶺遼大と軽く抱き合い、そして高嶺遼大が車に振り返る。私の出番のようだ。私はゆっくりと慎重に車から降りる。車から降りて来た私を見て、加山良江は息を飲んだ。「燈、お嬢様……」加山良江がそう言う。燈様、燈お嬢様……そんなふうに私を呼んでいた加山良江。決して私を“奥様”とは呼ばなかった人だ。今にして思えば、加山良江はそういう意味でもきちんと線は引いていたんだろう。「久しぶりね、加山さん」私がそう言うと、加山良江はハッとして、頭を下げる。自分が見下していた相手が、またもや自分よりも目上の人間として現れた事に対して、反応が遅れた、というところかしら。高嶺遼大に並ぶと高嶺遼大は大袈裟に私の肩を抱き、目の前の森崎健太郎に言う。「父さん、燈とも久しぶりだろう?」森崎健太郎も笑顔で頷き、言う。「あぁ。燈ちゃん、元気だったかい?」私はそんな森崎健太郎に言う。「えぇ、森崎のおじ様。お久しぶりですね、ご無沙汰しています」まさか主の前でスマホを手に取る訳にもいかないだろうけれど、目を離したらきっと加山良江は愛沢くるみに連絡を入れるだろう。それではせっかく湊が愛沢くるみを誘い出してくれた意味が無くなってしまう。私が森崎健太郎に頷いて見せると、森崎健太郎が微笑んで頷く。「加山さん、悪いが私は遼大と話がある。燈ちゃんは大切なお客様だから、君が案内して話し相手をお願い出来るかな? 君は燈ちゃんとも知り合いだろう?」何も事情を知らない振りをしてそう言う森崎健太郎に加山良江が苦笑いして頷く。「かしこまりました」森崎家にはもう一人、愛沢くるみに取り込まれている人物が居る。でも。その人物に対してはそれ程、心配はしていなかった。それはどうしてか。「あら、あなた。また来たの?」森崎家へ入った私たちを見た森崎望美がそう言う。そして森崎健太郎と高嶺遼大の後ろから入って来た私を見た森崎望美がその歩みを止める。「……佐伯、燈……」瞬間、森崎望美はその目に怒りを浮かべる。その反応を見て、愛沢くるみの森崎望美に対する“洗脳”は完了しているんだなと思う。ツカツカと真っ直ぐに私へ向かって歩いて来る森崎望美の前に高嶺遼大が立ちはだかる。「退いて頂戴」森崎望美がそう言った時、森崎健太郎が言う。「望美、お前にも話がある。一緒に来なさい」森崎健太郎

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   41話 作戦開始

    湊から連絡入る。~すまない、加山良江を誘い出す餌が見つからなかった~そのメッセージを読んで、車の中で待機していた私と高嶺遼大は少しの間、作戦を練る。「加山良江は私が引き付けるわ」私がそう言うと高嶺遼大が頷く。「まぁ、それが一番自然だろうな。森崎家へは俺が居るから出入り出来るとしても、俺が加山良江とは今日会ったばかりで、何の接点も無いからな……」大人しそうな見た目で、控えめだった加山良江。でもそれは世間を欺く為の仮面。私はそれを知っている。あからさまに私に敵意を剥き出しにして、あの頃の私はその敵意にさえも気付かない程、無知で無垢だった。(今度はそうはいかないわ)私はそう思いながら、森崎家の近くで高嶺遼大と車の中で、待機する。◇◇◇「くるみー」そう呼ぶ声が聞こえる。「はーい」そう返事をして、階下へ降りて行く。湊は身なりを整え、手に花を持っている。可愛い小さな花束。何ていう花なのかは知らないけれど。湊と階下で軽く抱き合い、花を受け取る。「くるみにピッタリだろう?」そう言われて私は微笑む。「そう?」そう聞くと湊は微笑み、言う。「あぁ、小さくて可愛くて守りたくなるような、そんなイメージだ」そう言われて私は湊に言う。「ありがとう」そのまま湊の迎えの車に乗り、走り出す。「くるみにね、もう一つ、プレゼントがあるんだ」そう言われて湊を見る。「まだ、あるの?」そう聞くと湊は真っ赤な高級そうな紙袋を取り出し、私に渡す。「これ……イルミの新作! しかも限定品じゃない!」そう言うと湊が微笑む。「あぁ、くるみはイルミのバッグが好きだろう? 今日のお詫びにね」そう言われて私は湊に寄り掛かる。「嬉しい」湊は私にお詫びと言って食事を予約し、こうして時間を割いて、限定品の新作バッグを買って来てくれた。燈と会って話しただろうに、湊にはそんな素振りは微塵も感じない。(やっぱり、決裂したのね。それで私に戻って来たんだわ)そう思いながら私は真っ赤な紙袋を早く開けたい気持ちを抑える。ここで湊よりもバッグを優先するのは可愛くない。◇◇◇目の前でくるみが目の色を変えたのを見て、俺の目が今までいかに曇っていたかを実感する。花を渡した時はそれ程でも無かったくるみの反応はバッグを渡した瞬間に目を輝かせ、そして俺に甘えるように寄り掛かり、でもしっかりそ

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   40話 傲慢な女王

    早速、湊が行動に移してくれる。私と高嶺遼大はそれに合わせて動く事にした。「上手く誘えそう?」そう聞くと湊がスマホを見ながら頷く。「大丈夫そうだ、今夜、これから食事に行く事にする」湊はスマホから顔を上げ、苦笑いして言う。「これからくるみにあげるプレゼントを探さないと」そう言う湊に私も苦笑いする。「それなら新作のバッグとかで良い気がするけどな」そう言ったのは高嶺遼大だ。「確かにそうね、それならくるみのご機嫌も良くなりそうだわ」湊は溜息をついて、苦笑いのまま言う。「さっき、くるみが来た時にちょっと冷たくあしらったから、ご機嫌取りしておかないと」そう言う湊に同情する。「仕事の事で頭がいっぱいだったとか何とか言えば、機嫌直るんじゃないか?」高嶺遼大が軽い口調でそう言い、腕を組む。「俺の見立てじゃ、これ程の罠を仕掛けられるくらいには頭は回るが、ことさら、男に関しては詰めが甘い気がするからな」そう言われて笑う。確かにそうかもしれない。「今日、森崎家に行った時、愛沢くるみは俺に媚を売るような態度だった。この聖カトリーナで間接的にではあっても、俺に怒鳴られたっていうのに、だ。あの傲慢さと厚顔無恥さは本当に脱帽だよ」――傲慢――愛沢くるみが今まで私に向けて来た悪意は、私のそれまで居たポジションを自分のものにしたいという欲望と、私が恵まれた生まれだという事への嫉妬のなれの果て。そしてそこに張り巡らせた罠に、笑ってしまう程、易々と掛かって行った湊と私。もがき苦しみ、悶える様子はさぞ可笑しかっただろう。私を絶望の淵へと叩き落した愛沢くるみは、その傲慢さをブクブクとその身の内に太らせている。肥大した傲慢さは時に命取りになるものだ。「丁度、限定品のバッグが出ているな」湊がスマホを見ながらそう言う。スマホから顔を上げて、湊が言う。「これを買って、持って行く事にするよ」私は湊に言う。「悪いわね」そう言うと湊は笑って言う。「こんな事で罪滅ぼしになるとは思っていないが、少しでも燈の役に立てるなら、それで良い」そう言う湊に高嶺遼大がその肩を軽く叩く。「くれぐれも取り込まれないように気を付けろよ。まぁ覚醒し始めてるから、おかしいと思う事は多いだろうが、愛沢くるみに気取られないようにしてくれ」湊が頷く。「分かっている」◇◇◇湊から連絡が来た。

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   39話 共闘

    愛沢くるみは加山良江に何かを渡している。映像を巻き戻し、湊がズームしてくれる。渡されていたのは紫のラインの入ったブリスターパック。すなわちラインプロスだ。そこで映像を止めた湊が言う。「俺にはこれが誰か分からない」私と高嶺遼大は顔を見合わせて同時に言う。「加山良江」その名を聞いて湊が驚く。「加山、良江……?」驚くのも無理は無いだろう。加山良江は目立たず、そして湊の前では礼儀正しかったから。「俺たちが結婚していた時に、使用人として俺と燈のマンションに来ていた、あの加山良江か?」そう聞かれて私は苦笑いする。「そうよ」私にそう言われて、湊は深い溜息をついた。「そうか……それなら燈にラインプロスを飲ませるのも、そう難しい話じゃないな」そう。実際に私は加山良江からお茶を用意されたり、スープを用意されたりしている。そのどれにラインプロスが混入していたかまでは分からなくても、実行犯は加山良江、これで確定した。そして。この件に関して、湊は少しも関わっていなかった。むしろ愛沢くるみの仕掛けた罠に汚染されていた被害者の一人だった。それでも。私はやっぱり、湊の口にしたあの言葉たちを忘れられなかった。目の前の湊を見る。寝ていないのだろうか、それとも眠る事が出来ないのだろうか、目の下にクマを作り、ここ数日でかなり痩せた感じがする。「ちゃんと食べてるの?」そう聞くと湊が少し笑う。「いや、実はここ数日はこの映像の事で色々考え込んでたのと、まぁ、仕事が忙しいのもあって……」そう言って語尾を誤魔化す。「いずれにせよ、愛沢くるみの愛用している香水を手に入れたいところだな」そう言って高嶺遼大が私の背中に触れる。「えぇ、そうね」私がそう言うと高嶺遼大は優しく微笑む。「じゃないと湊くんの解毒が進まないかもしれないし、離脱症状が出る可能性だってある」長年、あの香水に晒されていたのだとしたら、脳に何かしらの影響が出る可能性をも秘めているのだ。「さて、どうやって手に入れるか……」高嶺遼大が考え込む。「私なら、手に入れられるかもしれないわ」そう言うと大の男二人が私を見る。私は少し笑って言う。「私が湊と会って話をするかもしれない事は、既にくるみには伝わっている筈よね」私がそう言うと高嶺遼大が頷く。「あぁ、そうだろうな。愛沢くるみの母親がくるみに電話で

  • 跪くのはあなたです 流産の夜、私を選ばなかった夫は五年後、後悔する   38話 イルミのバッグ

    「それで、久遠先生、話したい事って?」高嶺遼大が聞く。湊は私たちにノートPCの画面を見せながら言う。「これを見てくれ」そう言われて私はその画面を見る。ノートPCに映し出されていたのは監視カメラの映像だった。「……監視カメラ?」そう私が湊に聞くと、湊が言う。「実はここ数日で分かった事が色々あるんだ」そう言われてまた私は高嶺遼大と顔を見合わせる。「五年前のあの日……燈が流産をしたあの日……燈の異常を感じ取って、産婦人科の須藤先生が燈の血液検査をしてくれていた事は知っているか?」そう言われ、私は苦笑いする。「知ってるわ」私のその答えを聞いて、湊は一瞬驚き、そして少し笑う。「そうか……じゃあ、燈の血液検査の数値に異常があったのも?」そう聞かれて私は頷く。「えぇ、知っているわ」そう言うと湊が少し悲しそうに笑って言う。「そうか、じゃあ話は早いな」湊が胸元からUSBメモリを出して、ノートPCにそのメモリを挿す。画面に映し出されたのは私のカルテだ。「俺はこれを産婦人科のデータベースから引き出した。けれど公になっているデータを見るだけでは分からなかったんだが」そう言って湊が自嘲的に笑う。「その時に須藤先生がすぐ近くに居てね。須藤先生が教えてくれたんだ」湊はまた胸元に手を入れ、一枚の紙を出す。「燈の血液検査票だな」高嶺遼大がそれを見て、そう言う。湊が頷く。「そうだ。これを見ておかしいのは一目瞭然だった。そして」湊がPCの画面を切り替える。「俺はこの薬品庫で須藤先生からある話を聞いた」そう言われて胸がドキドキし出す。「須藤先生はあの日の燈の数値の異常と燈の状態を実際に見て、照らし合わせた。導き出されたのは」そこまで湊が言うと、高嶺遼大が続ける。「ラインプロス、だろ」高嶺遼大にそう言われて湊が頷く。「そうだ。そしてすぐに須藤先生はラインプロスの数を確認したそうだ」湊がそこまで言って言葉を飲み込む。「……合わなかったのね」私がそう言うと湊が頷く。「それも二回分」そう言われて少し驚く。「二回分?」そう私が聞くと湊が少し笑う。「あぁ、そうなんだ。二回分」そして湊はPCに映された映像を動かす。薬品庫に入って来た人物は……。「これは薬剤師の波多野優斗。彼は今も聖カトリーナに在籍しているよ」湊がそう言う。波多野優

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status